episode.3 西瓜の旅路
episode.3 西瓜の旅路
香り、味、温度など、
身体感覚をとおして自分の中に残った記憶。
それを何らかのきっかけで
唐突に思い出すことがあります。
先日、農作業をしているときに、
自宅でとれたスイカを持ってきてくれた方がいました。
大胆にもコンクリート上でスイカを切り分けてくれ、
真夏のジリジリとした日差しのもとで頂いたのです。
口のなかで爽やかな甘さが広がった瞬間、
かつてシルクロードの国々を旅したときの情景が
記憶の底から浮かび上がってきたのでした。
真夏のシルクロード。
賑やかな市場。
これでもかと積み上げられたスイカ。
現地の人たちは、
積み上げられたスイカを手に取って、
平手でポンと叩きます。
返ってくる音と振動によって、
熟し具合を見極めているのです。
食べごろのスイカは、
澄んだいい響きがします。
値段は大きさや重さにもよりますが、
1玉だいたい80〜300円ほど。
味は、日本で食べ慣れたスイカとほぼ同じです。
瓜好きの僕にとっては天国のようで、
何度となく、重いスイカを抱えて宿に帰ったものでした。
あるとき、
ウズベキスタンの小さな町を歩いていると、
通りがかった家から男の人が出てきました。
あいさつすると、
興味を持ってくれたのか立ち話に。
「うちでお茶していきなよ」
と招いてくれたのです。
彼の名前はグロムジョンさん。
家にはご家族もいらっしゃいました。
家の中に案内してもらい、
出してくれたのは、
チャイ(中央アジアではストレートティーのこと)、
ノン(=ナン。普通のパンに近い)、
そしてスイカと桃。
中央アジアのムスリムの家庭では、
飲食の前後に神さまへお祈りをします。
両手で器のような形をつくってお祈りを唱えたあと、
顔を撫でおろすような動きで締めくくります。
すっきり乾いた風が外から入ってくる部屋でいただく、
少し濃いめのチャイの渋味、
みずみずしいスイカの甘味。
どこか懐かしく、心地よい時間でした。
「食べたら、町を案内するよ」
グロムジョンさんはそう言って、
貨物三輪バイクで町を巡ってくれたのでした。
さて、スイカは、漢字だと「西瓜」です。
中国語読みだと「シーグァ(に近い)」。
「西」というのは中国の西域をさしていて、
中央アジアから伝わってきたことを意味します。
アフリカからシルクロードを通り、
長い旅をして中国へ辿りついたスイカは、
さらに海を渡って日本へやってきました。
ひと切れのスイカには、
はるかな歴史と旅路のDNAが刻まれているのです。
・・・そう考えると、
おやつの時間がちょっと壮大で、
どこか特別な感じがしてきますよね。
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