episode.2 また朝がくる
episode.2 また朝がくる
ある初夏の日の夜明けまえ、
遊牧民のキャンプで目を覚ましました。
ここはキルギスの山中にある草原。
外へ出ると、
あたりは薄明るくなってきていて、
大気にはピンと張りつめた冷気が満ちています。
鳥のさえずりや、牛や山羊たちの声が、
草原に柔らかく響いていました。
なんて気持ちのいい朝なんだろう。
なぜこんなところにいるのか?
というと、
昨日の昼間に、この山の麓の村から、
遊牧テント(ユルタ)が小さく見えたのです。
気になったので、
山を登って訪ねたところ、
仲良くなり泊めていただいたのでした。
このキャンプでは、
親戚同士の2家族が暮らしています。
現代キルギスの遊牧民は、
子どもが夏休みになる3ヶ月間(6月〜8月)だけ
遊牧生活をしている家族が多いそうです。
彼らも、そう。
家を持ち、普段は定住生活をしていて、
夏になると動物たちを連れて山へ来るのです。
昨夜の夕食と団らんのあと、
さあ寝るか、という時に、
「朝の仕事は何時から始まるんですか?」
と聞きました。
すると、
「外が明るくなったら始めるよ」
とのこと。
絶対に寝坊できない!と、
アラームをいくつもかけて眠りについたのでした。
さて、朝の仕事とは、牛の乳しぼりです。
この家族は、
昔ながらのやり方で乳しぼりを行なっています。
まず、お母さん牛の後ろ足同士をヒモで結ぶ。
乳しぼり中に人間が蹴られないようにするためです。
そして、子牛を連れてきて少し乳を飲ませる。
乳がよく出るようになったところで、
人間がしぼりはじめる、という流れです。
仕事がはじまってしばらくすると、
山の端から陽の光が差しこんできました。
低い太陽は草原に影を伸ばし、
ひんやりした風が穏やかに吹き抜けていきます。
乳しぼりが落ち着くころ、
大きなタンクを積んだトラックが
道なき道を登ってきました。
牛乳を出荷したところで一連の作業は終了。
仕事を終え、
お父さんのバクィトベクさんが
翻訳アプリを貸してくれと僕に言います。
そしてこう伝えてきたのです。
「素晴らしい朝だったね。
こんな朝が、また何度でも来るだろう」
その言葉には、
未来への疑いない希望、
はるか昔から続いてきた営み、
遊牧生活の不自由がつくる「幸せ」、
そういった様々な背景が含まれているように感じました。
バクィトベクさんの言葉の焦点が「朝」にあったこと。
そこに、自然と深くつながる暮らしをしている人の
心持ちをみたような気がしたのでした。
Comments are closed.
