episode.5 満月の日
episode.5 満月の日
日々の暮らしにおいて、
僕は〝満月の日〟を意識していません。
ふと夜空の丸い月が目に入ったとき、
「あ、今日は満月かな?」
と思う程度です。
なので、
〝満月の日〟が〝国民の祝日〟になっている国がある
と知ったときには驚いたものでした。
その国は、
インド洋の島国であるスリランカ。
仏教徒が多いスリランカでは、
満月の日は「Poya Day(ポヤデー)」と呼ばれ、
祝日となります。
毎月のポヤデーには、
早朝からお寺へ参拝に行ったり、
飲酒(お酒の販売も!)がNGだったりと、
宗教的に重要な日らしいのです。
スリランカ滞在中、
そんなポヤデーが重なりました。
現地で知り合った方に、
「ポヤデーはどこで過ごすのがおすすめ?」
と聞いてみたところ、
「この辺りだったら、
ぜったいソーマワティ寺院に行くべきだよ!」
と強く推されました。
スリランカ国民にとって重要な聖地で、
国中から巡礼者が訪れるのだとか。
「夜が明けるころにプージャ(礼拝)が始まるよ。
白い服を着ていくのを忘れないで!」
そしてポヤデー当日。
夜明け前から道ばたでバスを待ち構えましたが、
ずいぶん辺鄙なジャングルの奥にあるので、
お寺に到着したのは7時過ぎになってしまいました。
お寺の入り口にはたいてい花売りの方がいて、
そこでお供えする睡蓮を買っていきます。
スリランカのお寺は土足厳禁なので、
入り口でサンダルを脱がなければなりません。
数週間スリランカにいるのに
地面を裸足で歩くのに慣れず(小石が痛い)、
お寺ではいつもヘンな歩き方になってしまいます。
お寺の門をくぐると、
かすかに太鼓や笛の音が聞こえてきました。
すでにプージャは終わってしまったようで、
ペラヘラ(奉納のための行列)が行われているのでした。
行列をなす人々は、
食べ物や器、長い布などを運びます。
沿道の人々はお供え物に手を伸ばして触れ、
うやうやしく合掌します。
功徳をその場の全員で共有し、祈りが満ちていく。
白いダゴバ(仏塔)には
お釈迦さまの遺骨が納められているので、
ペラヘラで運ばれてきた布をダゴバに巻くことは、
すなわちお釈迦さまに衣をお着せすることを意味します。
「あなた仏教徒でしょ、
一緒にダゴバに登ってきなさい!
ありがたいことなのよ!」
行列の女性たちにせかされ、
衣を手で支えながらダゴバに登りました。
ダゴバは熱帯の太陽をうけてまぶしく輝き、
地上では白服の人々がぐるりと取り囲んで
晴れやかな顔をしているのが見渡せます。
なんて美しい光景。
ダゴバから下りると、
まわりの方々が「良かったね」と笑いかけてくれました。
スリランカでは、
所作ですぐ仏教徒だと分かってもらえるので、
とても打ち解けやすいのです。
ひと段落したころ、
参拝者に朝食が配られました。
近くにいる人たちがすぐに気を利かせて、
「あっちで受け取るんだよ!」
と連れていってくれます。
お祭りのテントのような配膳所があり、
ココナッツミルクで炊いたお米やお惣菜が振る舞われます。
(食事はお昼にも配られました)
スリランカのお寺には、
火を灯したランプをお供えする場所があります。
火は、無明の闇を照らす「智慧の光」の象徴。
どこのお寺に行っても必ずお供えされています。
「これ、あなたのお線香よ。
一緒にお供えしましょう」
女の子がお線香を手渡してくれました。
瓶に入った油をランプに足して、
お線香を焚くと、
かぐわしい煙がたちこめます。
その煙は浄化の象徴とされているのだそう。
やがて人々がお堂のほうへ移動しはじめると、
「法話がはじまるから一緒に行こう」
と近くにいた人が声をかけてくれました。
お堂の床はひんやりと冷たく、
心地よい風が通り抜けていきます。
スリランカでは多くの人が英語を話しますが、
法話はシンハラ語。全くわかりません。
けれど、僧侶の声の響きに耳をすまし、
周りの方々と一緒に合掌していると、
不思議な充足感があるのでした。
法話が終わると、
堂内に音が戻り、空気が軽やかになっていきます。
気づいたら時刻は夕方。
あたたかく満ち足りた、満月の日でした。
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